俺思考
人間は自己について理解していなければ、事故に合う。
ただ人とは未知数であるために自己について完全な理解は不可能だと思える。
自分はよく理不尽、矛盾に気がつく人間だろう。妙に冷静に分析することがある。
例えば、暴走族の暴走行為は、誰が見てもひどく非行行為である。が・・・・
考えてみてほしい。少し前の姉羽(アネハ)一級建築士の違法設計と、
暴走族の暴走行為、いったいどちらの方が悪いのか。
単純に、考えれば
アネハは多くの人を死と隣り合わせの危険にさらした。
暴走族はごく一部の民間人を危険にさらした。
結果論からいえば、アネハのほうが多くの人間に損害をもたらせたので、
悪だと言える。しかし、どちらも背景にはさまざまな経緯がある。
ある一人の暴走族がいた。優二は15歳の中学生ながら、連合に所属していた。
母子家庭であり、母親はいつも帰ってこず、小学生のころからほとんどをコンビニ弁当で
過ごす。もちろん一緒に食べる相手などいない。
「なぜかあさんはいつもいないの??」
と優二は小学校にあがるぐらいの頃からいつも疑問に思っていた。
学校から帰るといつもある置手紙と、500円玉。
手紙には「いつもいつもごめんね。これで好きなものを食べてね。」
ゆうじはは仕方なくコンビニで買い物を済ませる。
一番好きなものは焼きうどんだった。
そして、10時には寝ていた。
朝になる。
母親が眠っている。
リビングにはコンビニで買ったサンドイッチが無造作に置いてあった。
それを食べて学校に行く。
そんな日々が続く。
なぜ優二はは父親がいないのかと思っていた。
自分だけ父親がいないんだ。
とうさんはいったいどこにいるの??
しかし、それは少年ながらに、母親に聞いてはいけないものだと感じていた。
空間を歪めたような空はいつも洗礼された物のように思える。
混ぜても混ぜても交わらない絵の具のような空。
優二のの家は古びた一軒家で、塀はつるが登り、コケが生えている。
けして広くはない部屋は、なんとなく生活感がなくひっそりとしている。
優二は、次第にこの生活になんの疑問も抱かなくなった。
すべてに疑問を抱くことさえ忘れ去られし少年の思考。
学校へ行き、
帰宅すると机に置かれた500円玉を使ってコンビニで焼きうどんを買う。
母親はいつも少年が起きる7時よりも1時間早い6時に帰宅してはすぐに
眠ってしまっていた。
母親はいつも優二にこう言った。
「あなたのためなのよ。あなたのためなのよ。」
優二は次第に小学校へも行かなくなった。
机に置かれた五百円玉は、食費に使われなくなった。
小学校六年生になった少年。
夜の街を1人背中を丸めて、歩く。
とても小さく、透けてしまいそうな背中。
母親は、優二に対して、とても優しい子だと思っていた。
なぜなら、母親に対してけして何も聞こうとしなかったからである。
しかし、優二はこう思っていた。
母親は、夜の世界でいつも酒を飲み
客をもてなす仕事をしている。
だから母はいつも明け方に帰ってくる。
夕方もいないのは、どうせどこかに男でもいるんだろう。
それで、自分の世話なんて面倒だから
、いつもその男の家に転がり込んでるんだろう。
きっと父親は、夜の世界で知り合った人間でいい加減な人。
それで、母と自分を捨てたに違いない。
僕には母親も父親もいない。
母親は、中学3年生になったとき、すべてを打ち明けようとしていた。
中学生になった優二は、次第に俗いいう不良と化していく。
彼の心の空白は誰にもわからなかった。
彼自身そういう風になることは望んでいない。
彼の周りはそういった境遇の人間達が集まった。
なぜなら、みんな何も望んでいなかったからである。
背の高い、スキンヘッドのヤカラがいる。年はずいぶんとはなれていたが、
ヤカラは少年達をよく助けていた。
ヤカラはヤクザだった。そして多くの下僕を従えていた。
ヤカラを通じて、少年達は原付を手に入れる。
次第に悪いことがエスカレートしていった。
七半のバイクに乗り換えると、都会の街中で、チョッカンのマフラーから空ぶかし
された耳を劈く音が響き渡る。鉄パイプで路面を削り、
火花を散らす。一般車を威嚇しながら、蛇行運転する優二とその周りの人間。
優二にとってはすべてがどうでもよかった。
いつもいつもそんなことをしていたが、それは母親にみつからないように
していた。学校へいかないのは、風邪とか体調が悪いと言って。
中学二年生に上がったある日の夜、それは夏なのになんとなく肌寒く、
星はよく見えているのになのとなくプラスチックの塊のような無機質なもので、
それが嫌でも目に映ってそれが焼きついた。
少年は母親より先に帰ろうと足早にバイクを飛ばしていた。
細い通りで道の隅を、白い帽子をかぶり、白いエプロンを羽織った人が
向こうに向かって歩いているのを見かける。
なぜかバイクで過ぎ去った後、
白いエプロンのその人の顔を見るために、振り返った。
その人の顔を見て彼はひどく動揺した。
しばらく走り、交差点を信号を無視して直進しようとしたとき、
左から巨大なトラックが少年目掛けて突っ込んだ。
白い天井と思われるものが見える。天井の汚れが、人に見えたりロボットに見えたり、
スフィンクスに見えたりした。
少年は病院の個室でベットに仰向けになって寝ていた。まだ状況を把握しきれていない。
そうだ、僕は帰宅途中で大型トラックにぶつかったんだ。
怪我はほとんどしていないようだ。
しばらくすると、母が来た。
少年は母を見てすべてを思い出した。
そして、今まで流したことのない涙がほほをつたった。
あれはかあさんだったんだ。
ごめんなさいかあさん。
思わず口に出た言葉。
母は、夜の街でホステスをしているはずだった。
母はホステスをしていて、少年はそう確信して疑う余地はなかった。
いつも、念入りに化粧をし、男達を相手に酒を交わし、多くのお金を落とさせることに没頭し、
見ず知らずの男とアフターをしていたはずの母。少年を嫌い、彼氏の家に転がり込んで
いるはずの母。彼氏に貢いでお金のない母。すべては少年が
長い年月をたてて作り上げた想像上での母だった。
あの白い帽子と、白いエプロン。左には工場があった。
母は、いつもあそこの食品工場でで夕方から明け方遅くまでサンドイッチを作っていたんだ。
だから、いつも帰ってくるのが遅かったんだ。優二は母のすべてを裏切るようなことをした。
その母親の苦労も知らず、反社会的なことをしてしまっていた。
すべては、母親とのすれ違いから始まったのだ。
工場でマスクとエプロン、手袋と帽子をかぶって、汗を流しながら働く母を思い浮かべる。
それはすべて、1人の息子である自分のことを思って
のことだと思うとどうしようもなくなり
泣き崩れた。
今までのこと、自分が考えていたことすべてを母さんに打ち明けた。
そして優二は言った。
優二 :なんでもっと正面からぶつかってくれなかったんだ!
母は泣きながら、言った。
母 :本当にごめんね。今まで優二とまともに話す時間すらなかったものね。
あなたの父のこと、中学3年生になってから話そうと思っていたけど
今話すわ。あなたの父親は、あなた優二が生まれる直前に、
不治の病でこの世を去ったのよ。優しくて誠実な人だった。
優二 :とうさんとかあさんはちゃんと愛し合って結婚したんだ。
僕はちゃんとした家庭の子供だった。
不良行為に走ったのは、母さんと父さんのことを考えると
いてもたってもいられなくなったからなんだ。
これで安心したよ。
母 :これからは、二人で、がんばって生きていこうね。
優二 :・・・
母 :どうしたの?
優二 :実は俺はもう暴力団の一員のようなものなんだ。
これを抜け出すことは無理なんだよ。
母 :そう・・・
私はいままであなたのために生きてきたの。
あなたの将来がないのは、私の将来がないも一緒。
優二 :何か食べたい。
母 :お腹がすいたの?優二は焼きうどんが好きだったわね。買ってくるわ。
優二 :俺はかあさんが作ってくれた焼きうどんを二人で食べられたら
どんなにうれしいだろうって小学生の時思ったよ。
母 :わかったわ。私が作ってあげる。
優二と母は二人肩を並べてできたての焼きうどんを食べた。
そして母は大きな窓を開けた。すがすがしい夏の香りと共に気持ちのよい風を感じる。
登り始めた太陽は、紅葉したもみじの様に赤く染まりまるで夕焼けのようでさえある。
5階にあるこの病室からは、自分が住んでいた町並みが生き生きと活動しはじめている姿が見えた。
そして二人はそのまま無言で窓から身を投げ、風となって消えていった。